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あさぎ作小説「終末カグヤ」⑪とあさぎ屋外ヌード

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崖の向こうにはいくつかの山が連なっているのだが、どの山にもまるで食いしん坊が食い散らかしたケーキのように、ごっそりと齧り取られたような大穴が空いて、崩れている。それとも上三分のニほどが丸ごと吹きとんで、切り株のようになってしまったものや、ちょうど真半分のところで割られて、右側だけまるまる無いもの。山肌は、主に灰色か黒褐色だが、それでも若い草の色が麓付近や、峰を彩ってかろうじてしがみついている。
 もう少し下へ目線を傾けると、大きな山の影に、集落の跡が見える。集落だったと分かるのは、ぽつぽつと壊れ残った加工された石や、柱の跡、ぶつ切りにされた蛇のような惨めな道路からで、コンクリートの破砕の新しさを無視すれば、遺跡の眺望と言ってもよかった。真上の空は、青かった。穏やかな風が、まだ、後ろの梢を揺らし、無数の熊笹はささやかな金銀の鈴と、グラスハーモニカとのコンサートを奏でている。
 トモカは、朝、榊に聞いた断片的な話を思い出す。「ここは、どこですか」「いまは、いつですか」「私は、どうなったのですか」……トモカが、せねばならなかった根本的な質問に、榊は例の調子で、竹細工のついでのように答えたのだ。
日本中が、おそらくこうなっている。大都市も、地方も、野も山も海もおかまいなしに、破壊の禍に呑まれた。攻撃が始まってから通信網はすぐに途切れ、テレビもインターネットも沈黙し、人々はただ目の前の世界を見るのみになった。「外国なら」と、港や空港に向かって逃げた者たちもいるというが、榊のように「どこだろうと同じだ」と考えた者は、ただ自分の居場所に残った。
国家は、脆弱な腹を晒しながらも、持てる力の限りをつくしたようだった。兵を出し、機械を出し、食糧や警官を出した。榊は元々ここに住んでいたわけではなく、山からそう遠くない地方都市で、職人の見習いをしていた。竹皮細工は、亡くなった祖父の店で習い覚えたもので、二十一世紀の始まった頃には、既にほとんど絶滅していた手技だった。
暮らしているすぐ傍を、閃光が行き来し、焼け焦げた戦車や、泥だらけの自衛官たちが走って行くのを見た。どの顔も、固まった汚れの中に瞳だけが、涙か、必死の意思かにぎらぎら光っていて、二度と戻らなかった。それから暴徒たちが現れた。榊は周囲の他の人々と同じように、殴り倒され、もみくちゃに踏まれて、持っているものすべてを奪われた。といって、大したものを持っていたわけではなかった。ほとんど竹にしか興味がなかったからだ。榊が頭を傾けると、今も右の側頭部に、そのときの裂傷の跡が見える。
 ――カシロダケの森へ行こう。
 そう、思った自分を榊は覚えている。森の傍の山小屋は、廃屋同然だったものを安く譲りうけて、週末になるたびに、少しずつ材料を運んで修繕していたものだった。カシロダケの森の強さが、山を守ってくれるかもしれないという微かな期待もあったが、それ以上に、ただその傍へ逃げ込みたかった。澄んだ空気と、トパーズ色の陽光に乗って聖者の吐息のように降り注いでくるタケヤネを感じることで、生命を見失わない気がした。
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