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あさぎ作小説「終末カグヤ」⑬とあさぎ屋外ヌード

S1070001修正後

それから二十分ほど、足裏を押しあげる豊穣な土の響きだけ感じながら、坂を下った。手造りの草履は、土を踏みしめるたびに、ほどよい弾力をトモカに返してきた。傾斜は徐々に緩くなり、平坦に変わった。
 里野には、干上がった小川が、無残な黒い溝になって道と平行にくねっている。遠くに、住宅街の痕跡が、真昼のか細い幽霊になって、立っていた。そのもっと奥にある、灰色の荒れ果てた墳墓は、都市の残骸だろう。かつては摩天楼といわないまでも、ビル風を巻き起こし、陽に輝きながら通勤する者たちを見下ろしていただろうビル群は、山たちと同じようにえぐり取られ、破砕され、割られているようだった。真昼の月晶を砕き散らした眩い風が、トモカの体をやさしくなぶった。
 その遠景がはっきりするくらい近づいたあたりで、榊の姿が不意に消えた。「えっ」とトモカが凍り付いていると、道の脇に密集した草の間から、榊の手の先がひらひらと揺れ伸びてくる。「こっち」と、その手と声に導かれて覗き込んでみると、道の脇に深い溝があり、かつては農業用水か何かを流す小川になっていようだった。草が伸び放題になっているために、溝自体が隠れて見えなかったのだ。トモカは恐る恐る、榊の手が出ている脇へと脚を下ろしてみた。草の間から見える榊の目に、「大丈夫、そんなに高くないから」と促され、重力にまかせてみると、足首や膝を三角形の草っぱがこすりあげて痒くなったと同時に、足が下へついた。
「……あ、こんな」
 懐かしい、と口走りそうになって、胸を押さえる。頭は何も思い出せないのに、甘やかな心地を、鼻や皮膚が記憶している。すぐ前の溝の壁には、腰をかがめれば通れる小さなトンネル。水位の調整用だったのか、色の剥げたハンドルが、機能を喪失したまま退屈げに入り口に突き出ている。
「君もガキの頃やった? こういうの。秘密基地」
「うん、そんな気が……する。たぶん。わくわくした、こういう場所見つけると」
 自分だけ、または自分と仲間だけが知っている小さな場所を作って、好きな本とかおもちゃとか持ち込んで、遊ぶんだ――家でやればいいようなことでも、どうしてだかその場所ですると、ぜんぜん違った……。そうトモカは考え、その半分くらいを話した。榊は目を、細く消え入りそうにした。「えっ?」トモカが怪訝な顔をすると。榊はうなずいて、答えた。「あんた、やっと笑った。よかった。笑えないのかと思ってた」
 トモカは、自分の頬を触ってみた。無意識に広げた自分の笑みが、少し窪んだ。

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あさぎ作小説「終末カグヤ」⑫とあさぎ屋外ヌード

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「どうかした?」
 トモカから数メートル離れて、榊は止まった。トモカが答えあぐねていると、体を向き直らせて、自分のすぐ後ろで二股に分かれている道の、上の方を指し示した。「……あそこに、あの竹の森がある。俺が毎朝行く所。あんたが、倒れてた、」トモカの顔がその言葉で、ようやく動く。その通りに目線を辿らせると、肌色に近い白の、光り艶めく繊維の不思議なあの竹が、坂のずっと上にひと塊の森になって、穏やかに体を揺すっているのだった。すぐ向こうの山は毀たれているのに、涼しげな葉ずれの音が満ちるその周囲は、土が焦げてはいてもほとんど傷んでいない。
「ん」
 榊は、眉の上に、物見の形に掌をあてた。今度は崖の向こうの、集落の周辺の山に体を向ける。眉を少し寄せた。「『あいつら』、今日もいつもの感じだな。前に見たよりも一つ、多い」
 トモカは喉から、うっ、と短い声を絞った。
青い大気の、その濃さの上から、集落だった山の稜線に沿って、チリチリと発光する金色の楕円が降りてくる。遠眼なので正しい大きさは不明だが、数は五つほどで、くるくると互いに回りあいながら、激しいスピードで稜線の形を滑り始める。急上昇したり、山を貫いたその穴を潜り抜けたり、時折山肌にぶつかるほどに接近したり、かと思うと唐突に静止して、縁をこすり付け合う動作をする。トモカがまばたきをした丁度その時、五つの個体は花弁形に集合し、縦横に伸びる固い光を放った。光は緩いカーヴを描いて山肌に当たり、鈍い空気の振動がとどろいて、山は積木の部品を外したように、呆気なく五分の一ほど消し飛んでしまった。
 白煙は、遅れて、その周囲を包む。炎はほとんど出ない。楕円たちは、その煙の中を、上下運動を繰り返しながら行ったり来たりした。
攻撃、というけれど、トモカの目には、それらには攻撃の意図など、まったくないかのように見えた。その楕円たちには、彼ら自身のなにか言い難い生理があって、それに従ってただ動いているだけのように見えた。他の生き物が死ぬとか、壊して意味があるのかとか、そんなことには全くの無頓着か、概念自体がないのかもしれなかった。榊は、遥か昔の、乗用車が見上げるようなサイズで、稲の背が胸まであった夏休みを思い出した。あの頃はよく、他の子が造った砂山を全部崩してしまったり、蛙や蝉の腹を裂いたり、蟻を踏み殺したりしたが、それをしてはいけない理由は、なんと言い聞かされてもよく分からなかった。害意も、悪意も、目的もなかったからである。
そもそも、つくりが全然違うのだ。彼らの目に地球の生物がちゃんと〝生物〟に見えるのかどうかも、不明だった。人間の目に至っては論外で、赤外線も紫外線も見えず、宇宙空間も九割以上が見えずに、仕方なくダークマターなどと呼んでいる始末だ。世界の一割の感覚で認識できる物は、あまりに少ない。
確かなのは、ああいったものが何千何万と今の地球にいることと、どんな武器も言葉も歌も、通じなかったということだけだ。交渉の手段はなかった。相手は、支配も、奴隷も、物資も、喜びも、コミュニケーションも求めてはいなかった。
上空に、更に二個ほど、やや錆びた赤色の楕円が現れたが、ただ黙って光っているだけで、動かない。これらが人間の前に初めて現れてからもう三年近く経つが、破壊は、延々と続いている。それも必ず規則正しく、地球の一自転ごとに範囲が広がり、頻度が増し、数は増えるのだった。
「行こう。見ていてもしょうがない」
 榊はトモカを目で促し、また、草を踏み分け始めた。蒼穹を、長閑な欠伸のように、薄い雲切れが過ぎていき、灰色の影が二人の肩を撫でる。トモカは楕円の光について様々な想像をめぐらしながら、さっきよりも足早に付いていった。
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