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あさぎ作小説「終末カグヤ」⑤

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「このラジオを聞いてるとさ」
 男は言った。女の目線に敏感に答えたような調子だった。
「まだ、みんないるみたいに思うんだ。だから好き。……沖縄で、九州で、中部で、四国で、関西で、関東で、東北で、北海道で、……朝の目ざましのベルがなってさ。男が、女が起きて、子どもがまだ布団でむずかってて。朝食を食べたり、服を着がえて出かけたり、出かける家があって、道があって、バスが来て、電車が走って、郵便屋のバイクと、出勤の車のエンジンの音がして……。学校があって、会社があって、田んぼや畑があって。そこで話したり、笑ったり、黙って本や漫画読んだり、ぼんやりして窓の外見てたり。週刊誌があることないこと、ニュース詰め込んで、ばたばた忙しく発行されてさ、遠くでは国会議事堂で、政治家がああだこうだ大騒ぎしてんの。……まだ、そうやってるんじゃないかって気がするからさ。本当は、分かってるけど」
 もう、そんなもの、なんにもないんだってのは。と、男は続けた。女は、急に眉を寄せて、腰まで伸びた長い黒い髪をさっと揺らし、戸口のほうを振り返った。男は相変わらず、そのしぐさを見ない。目は、今は五本目の四こ縒りにさしかかっている、指の爪先の光に向いたまま、女をやんわりと言葉で止める。
「大丈夫だよ。ここには、来ない」
「……」
「嘘じゃない。俺はずっとここにいるけど、ここには何にも来たことがない。兵隊も、ギャングも、『あいつら』も。『あいつら』のあの攻撃が、色んな山を崩したけど、カシロダケの森は、最後まで崩せなかった。……この竹は、すごく、根が強いからね。山の土を保持する力が、すごいんだ。……だから、カシロダケの森のまわりと、尾根へ登っていく藪の道はまるまる残ってる。ただし、藪の道の入口のほうは、時々『あいつら』の通り道になるから、横断にだけは注意する。見つからなければ、決して撃ってこない」
 そう言われても、女は、恐そうに戸口へ目をみはり、身をこわばらせていた。男は手際よく竹皮を縒り続け、今度は、八こ縒りにさしかかる。それを一本二本、編んでから、ようやく顔をあげ、手をさしのばして女の肩をたたいた。女はぴくりと身じろいでから、深いため息をつき、男に向き直った。男は短い前髪の下の、やや彫りの深い眼をいっそう蒼く澄ませて、女の白い肩へ静かに滑らせ、それから手元へと返した。
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コメント

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突然の訪問、失礼いたします。
私はこちら⇒https://goo.gl/ikghAF
でブログをやっているきみきといいます。
色々なブログをみて勉強させていただいています。
もしよろしかったら相互リンクをお願いできないでしょうか?
「やってもいいよ」という方はコメントを返してくだされば、
私もリンクさせていただきます。
よろしくお願いします^^
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